Venezia, Italy

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2014年5月15日木曜日

第1講 運動学(その1):変位と変形の記述

§2.運動学

2.0 これだけは知っておきたい


変形勾配:ある物質点近傍の変形の様子
ひずみ:変形のメジャー
有限ひずみ:厳密な変形のメジャー、非線形なので計算が面倒
微小ひずみ:線形化近似、適用限界あり(大きな変形、剛体回転によって誤差)

以下、Lagrange(ラグランジュ)表示について学ぶ。これは時間に伴う物質点(Material point)の運動を追跡して記述する方法。簡単のため、3次元直交直線座標系(カルテシアン座標)を用いることにする。

2.1 位置ベクトルと運動


この式は、時刻t=0で位置ベクトルX_pの物質点が、時刻tに位置x_iを占めることを意味している。ここに下添字i, P は1,2,3(3次元なので)である。時刻によって物質点の位置ベクトルが変化することを運動という。

2.2 変位、速度、加速度

ある物質点について、時刻t=0における位置ベクトルと時刻tの位置ベクトルの差を変位u_iという。


ある物質点の速度v_iは変位の時間変化率として定義される。

ここでX_i(初期の物質点の位置ベクトル)は時間によらないため、X_i の時間変化率はゼロであることに注意せよ。

また、加速度a_i は速度の時間変化率である。


2.3 変形

変位と変形の違い。変位は物質点に運動に関する情報で分かるが、変形は物質点とその近傍の運動に関する情報を必要とする。

時刻 t = 0 において、物質点A(位置ベクトル X_p)とその近傍の点B(位置ベクトル X_p + dX_p )を考える。時刻 t における物質点A, Bの位置ベクトルは、テーラー展開を用いると以下のように表せる。

この式に現れる行列(あるいは2階のテンソル)を変形勾配テンソルといい、通常はF_{iP}で表す。


以下、いくつかの例題を示す。各例題について、どのような変形が生じているか、簡単な絵を描いてみるとよい。

例題1 並進運動に対して変形勾配テンソルを計算してみよ

(解答例) 並進運動を具体的に示す。

変形勾配の定義に従って変形勾配テンソルを計算する

単位行列になる。

例題2 x_3軸の周りにαだけ剛体回転するとき、変形勾配テンソルを計算してみよ

(解答例) まず剛体回転運動を具体的に式示する。

(回転角度の正負については、x_3軸の正の方向に対して右ねじを正とする)

したがって、定義より変形勾配テンソルは


例題3 各軸についてストレッチ(引き伸ばす)した変形を考えてみよう。この変形に対する変形勾配テンソルを計算してみよ

(解答例)このような変形は、以下のように書ける。


したがって、定義より変形勾配テンソルは以下のように計算できる。

ここでλは各軸に対して伸びの割合を表している。ゼロであれば伸び縮みせず、正であれば伸び、負であれば縮む。いくら縮んでも物体が無くなることはないので-1よりは大きな値となる。

例題4 単純せん断 (simple shear) 変形をうける物体の変形勾配テンソルを計算せよ

(解答例)単純せん断とはマッチ箱が歪むような変形なので、例えば以下のように書ける

したがって、定義より変形勾配テンソルは以下のように計算できる。


例題5 純せん断 (pure shear) 変形を受ける物体の変形勾配テンソルを計算せよ

(解答例)純せん断とは共役なせん断力を受けるときの変形で、例えば以下のように書ける。

したがって、変形勾配テンソルは


例題6 例題5で示した純せん断を、2つの異なる座標系で見てみよう。ダッシュのついている座標系 (X'_1など) は、ついていない座標系(X_1など)を、X_3軸周りに45度回転した座標系とする。

例題5で示した運動をダッシュのついている座標系で見れば、どのように見えるか考えてみよ。
(解答例)2つの座標系には以下の関係が成り立つ。

x'_1, x_1 などについても同様に成り立つ。
この逆関係は以下のように表せる。


これを例題5の「変形を表す式」に代入し、ダッシュのついた量の関係で表してみる。すると最終的に以下の関係を得る。

これは、ダッシュのついた座標系で見れば、同じ大きさの変形を、X'_1軸方向には引っ張り、X'_2軸方向には圧縮で与えたことを意味している。(絵に描いて確かめてみよ。) このことから分かるように、純せん断変形と2軸の伸び・縮み変形は全く同一の変形である。ただし座標系のとりかたが異なるので、見える成分の値は異なって見える。同様の事実は応力についても言える。


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