2.4 一次元変形場におけるひずみ
一次元変形場とは、例えば紐の伸び変形等のように、一次元方向のみに変形が生じる場である。ひずみとは、変形の度合いを表す測度(メジャー)である。一次元変形場では以下のように定義するのが自然であろう。元の長さを基準として、変形後の長さがどうなっているかを表す。元の長さを L_0, 変形後の長さをLとしたとき、伸び量(L - L_0)を元の長さで割った無次元量のことを「ひずみ」という。
議論の準備のため、これを少し式展開しておく。この形を頭にとどめておくこと。
2.5 三次元変形場におけるひずみ
先ほどの一次元場の考え方を三次元に拡張し、元の幾何情報を用いてひずみを定義する。得られるひずみは「Green-Lagrange(グリーン・ラグランジュひずみ)」と呼ばれる。このひずみの定義には、変位に関する非線形項が含まれる。このひずみに基づく変形の理論を有限変形理論という。
ある物質点Xの変形前の近傍dXを考える。この近傍dXが変形によってdxに変化することを考え、変形勾配テンソルでそれを具体的に表してみる。近傍dXの長さをL_0, 近傍dxの長さをLと考えると、長さの2乗の差は以下のように書ける。
ただしクロネッカーのデルタを用いている。
一方、元の長さの2乗は以下のとおりである。
一次元変形場のひずみとの類似性を見れば、以下の2階テンソル(行列)で表される量がひずみの測度(メジャー)として定義できる。これを「Green-Lagrange(グリーン・ラグランジュひずみ)」という。
2.6 変位を用いてひずみを表現する
グリーン・ラグランジュひずみを変位で表してみよう。ある物質点の変位とは、現在の位置(ベクトル)と元の位置ベクトル(基準配置における位置ベクトル)との差である。
これを変形勾配テンソルに代入すると、以下を得る。
したがって、グリーン・ラグランジュひずみは以下のように書ける。
2.7 ひずみの線形化、微小ひずみと微小変形理論
変位で書いたグリーン・ラグランジュひずみには、テンソル(行列)どうしの掛け算の部分があるため、ひずみは変位に比例しない(つまり非線形)。一方、この非線形項を省略したひずみの測度(メジャー)によって、「微小ひずみ」を用いることも多い。
微小ひずみを用いる変形の記述法を「微小変形理論」(⇔グリーン・ラグランジュひずみは有限変形理論という)とよび、このときはXとxを特に区別せず、ほぼ同一とみなして理論展開を行う。
重要なことは、このような線形化近似が有効でない場合、つまり適用限界を知っておくことだろう。
これを2つの例題で確かめておく。
例題7 X_3軸周り角度αだけ回転させる剛体回転運動について、グリーン・ラグランジュひずみと微小ひずみをそれぞれ計算せよ。また、両者を比較し、微小ひずみの適用限界について論じよ。
(解答例)運動は以下のように書ける。
したがって、変位勾配は以下のように計算できる。
これをひずみの定義に代入して、具体的に計算すれば良い。
微小ひずみテンソル(行列)は以下の通り。
これは、実際にはひずみの生じない剛体回転運動であるのに、線形化近似した誤差によってひずみが生じるように見えることを意味する。
一方、グリーン・ラグランジュひずみテンソル(行列)は
となり、たしかにひずみの発生しない剛体運動であることが分かる。
取り扱う運動に剛体回転がほとんど含まれていない場合は、微小ひずみ理論は良い近似を与えるが、剛体回転運動が含まれれば線形化に伴う誤差が出現する。(解答終わり)
例題8 X_1軸方向のみに伸びる運動(ストレッチ)について、グリーン・ラグランジュひずみと微小ひずみをそれぞれ計算せよ。また、両者を比較し、微小ひずみの適用限界について論じよ。
(解答例)運動は以下のように書ける。
したがって、変位勾配は以下のように計算できる。
これをひずみの定義に代入して、具体的に計算する。
微小ひずみテンソル(行列)は以下の通り。
グリーン・ラグランジュひずみテンソル(行列)は以下の通り。
両者を比較すると、変形自体が小さいとき、つまりβの値が小さいときには、微小ひずみ理論は良い近似を与えるが、変形が大きくなると非線形項の影響が無視できず誤差が出現する。(解答終わり)
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